安倍晴明 ~狐の子と呼ばれた男~
あべ の せいめい | 呪術や天文に通じた陰陽師で、鬼や妖から京の都を守ったとされる大陰陽師。本作ではまだ駆け出しの若者で、陰陽師の賀茂家で修行中である。葛の葉という妖狐を母に持つ。幼い頃は母親の側を片時もはなれられないような内気な子供であったが、その母とも離ればなれになっている。行くあてもなく彷徨っていた晴明を拾ったのは、朝廷により鬼討伐令の命を受け、国中より「力」がある子供を集めていた賀茂家だった。集められた多くの子供達の中でも晴明の能力は群を抜いており、「狐の子」「化け物」と差別を受けて育つ。人間で唯一、神格化された九尾の狐を殺せることから、狐討伐を任命されるが、それは「母と同じ香りのする敵」を倒すことを意味していた。歌舞伎の演目、「蘆屋道満大内鑑」には幼い晴明が登場し、能楽「殺生石」の主人公も本当は安倍晴明だと言われる。歌舞伎と能楽両方に描かれる人物。
蘆屋道満 ~秀才と呼ばれた陰陽師~
あしや どうまん | 天才、安倍晴明の影でいつも秀才どまりだった男。播磨国の貧しい民間陰陽師衆の家で産まれる。その類希な能力により、賀茂家に引き取られ修行を開始する。民間陰陽師衆の子としては、異例の出征コースであり、上手くすれば官位を賜われる身分になれるかもしれない。一族、そして村の期待を一身に受けていた。何故か安倍晴明とは馬があい、差別され苛められる晴明を庇い続け、やがて二人は無二の友となってゆくが、次第に能力を開花させてゆく晴明に取り残されてゆく・・・
賀茂守道 ~晴明の影で落ちぶれた名門、賀茂家の若者~
かも の もりみち | 陰陽師の名門である賀茂家の跡取り息子である。彼の祖父、賀茂 保憲は晴明の師匠であり、祖父は晴明の能力を早くに見つけた。暦道を息子である賀茂光栄に、また天文道を安倍晴明に継がせた。結果、陰陽道宗家は安倍家と賀茂家が二分することとなった。現在は神の如く崇められる大陰陽師・安倍晴明の影で、すっかり落ちぶれた賀茂家である。礼儀正しく実直であるが、顔や声がどことなく蘆屋道満に似ている・・・。
藤原道長 ~安倍晴明のパトロンと呼ばれた天下人~
ふじわら の みちなが | 「この世をば・・・」の和歌で知られる藤原一門1000年の基盤を作った天下人。五男に生まれながら、兄弟達が次々に他界したおかげで、藤原長者となった強運の持ち主。魑魅魍魎が跳梁跋扈する平安の世で、安倍晴明という天才陰陽師を味方につけ、一気に天下人の階段を駆け上がった人物である。晴明いわく、道長には「普通の人間より『力』があり、修行さえすればそこそこの陰陽師になる資質がある」らしく、『出世も、ある程度はその能力からくる勘によるもの』だそうである。 若い頃は「源氏物語」の「光源氏」のモデルにされるほどのイケメン、モテ男。老いては好好爺であるが、内には危険な野心と策略がうごめいている。国のためとはいえ、晴明を利用してしまったことを心では悔いている。
坂田金時 ~童謡にも歌われる伝説のヒーロー~
さかた の きんとき | 「鉞(まさかり)かついで きんたろう 熊に またがり おうまのけいこ ハイ シ ドウドウ ハイ ドウドウ ハイ シ ドウドウ?」という唄は誰でも聴いたことがあるだろう。何を隠そう、この金太郎は実在の人物の幼少期であり、彼こそは後に源頼光に拾われ武士となり、鬼退治で有名な頼光四天王の一人となり、酒呑童子を退治したとされる坂田金時である。豪快で底抜けに明るい人物。神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)という酒をいつも飲んでおり多少アル中気味。ちなみに、頼光四天王は他に渡辺綱、卜部季武、碓井貞光がいるが、今回は名前だけで登場はしない。
朱華 ~主様(ぬしさま)に作られたこの命~
はねず | 道長の家で枯れかけていた朱華(はねず)の木の精霊である。晴明によって助けられ、また肉体を得ている。そのため晴明のためなら止める暇も与えずに命を投げ出してしまうほど、心酔している。晴明のことは「ぬしさま」と呼び慕う反面、道長や他の者には高圧的。決して愛嬌があるタイプではなく、むしろ晴明を脅かす相手には攻撃的であり、呪詛で守道を一瞬にして怯え上がらせるなど、強面(こわおもて)な一面もある。人と妖の丁度中間地点におり、全てを客観的に捉えている存在であり、「晴明を利用したい時だけ利用して、邪魔になれば切り捨てる人間の方がよほど怖い」と語る。 能楽「西行桜」などに登場する木の精霊を参考に作った本作オリジナルキャラクター。
童子丸
どうじまる | 幼い頃の安倍晴明。母の傍をついて離れないような気の弱い子供ではあるが、言葉の端々から聡明さが伺える。様々な事が気になるようで、「何故? 何故?」と母親に問い続ける。弱かった過去は晴明にとってトラウマのようになっており、回想シーンで何度も登場し、過去から晴明に話しかけて苦しめることがある。歌舞伎「蘆屋道満大内鑑」に登場する。
源 頼光 ~平安時代の妖怪バスター~
みなもと の らいこう | 安倍晴明と同じくらい魑魅魍魎相手に大活躍したとされる人物。鬼退治のスペシャリストであり、本作では鬼討伐隊の総大将である。能楽「土蜘蛛」で土蜘蛛を倒す名将として登場するが、他にも大江山の酒呑童子なども退治している。余談だが、能の演目に「鵺」という物語がある。これよりずっと後の世に鵺(ぬえ)という妖怪が現れ帝を苦しめたとあり、その鵺を退治したのは、この頼光の子孫だとされている。鵺を射殺した時に使われた弓も頼光のものだというから、特別な力があったのだろう。頼光には四天王という最強の武士集団があり、それぞれ妖怪退治のスペシャリストだった。その中には、本作でも登場する坂田金時こと「まさかり担いだ金太郎」の姿がある。酒呑童子との戦いで恋人を失い、それがきっかけで女であることを捨てているが、それは続編の物語、女だてらに鎧姿であり、酒呑童子退治で片目を鬼に奪われ、狐退治で片腕を失った隻腕隻眼の猛将である。鬼の呪を受けており、不老の体を持っている。
葛の葉 ~人の子を育てた悲しい妖狐~
くずのは | 歌舞伎「蘆屋道満大内鏡」のヒロインとして登場する人間に化けた妖狐。その白狐は、不慣れな畜生の手にてその子を育てた。口で咥えては泣かれ、シッポで撫でてはあやし、寒い冬の夜には毛皮で温め、氷を牙で割り、食べ物を集めた。持てるすべての力を駆使して晴明を育てるも、やがて二人には別れが訪れる。芸者言葉のようなアダな言い回しが特徴で、通常の「母親」とは違い、いかにも不器用そう。人間の子である晴明の育児には随分と戸惑っている様子で、泣かれては腕組みをして考え込んでしまっている。そういった外見や言葉遣いとは裏腹に、とてつもなく母性のある人物。本作では「明るく晴れやかに生きて闇を遠ざけろ」という意味で晴明と名付けたのは葛の葉ということになっている。人の心の鬼を喰らう狐にとって、息子に鬼がやどればそれを喰らわねばならない。せめて息子の心に鬼を宿したくないという親心であったかのもしれない。
玉藻前 ~殷(いん)の国より渡来した伝説の大妖狐~
たまものまえ | かつて、大陸を荒らしまくった大妖怪、白面金毛九尾(はくめんこんもうきゅうび)の狐が化けた女である。古代中国の小説「封神演義」では妲己(だっき)という女に化けて、殷の紂王(ちゅうおう)にとりつき、国を傾かせたという。その後、インドへ逃げ、日本へ渡来し、能楽「殺生石」に登場する大スペクタクルな妖怪である。本作では帝に取り付き、鬼討伐を裏で操っている。その結果、倭の国は大変なことに・・・・。独特の抑揚がある高貴な話し方が特徴。人の心に鬼を生じさせ、その鬼ごと喰らう大妖怪。ゆえに、人の心を覗き込んだり操ったりすることに長けている。彼女に魅入られると、心の闇がうめき始めるという恐ろしい妖怪。人には彼女を倒すことはできない。
<その他 登場人物>
土蜘蛛
つちぐも | 能の演目に登場する鬼で、鬼の顔をした大蜘蛛であるという。 源頼光によって退治されたとある。 民俗学などによれば、実は鬼などではなく、当時の大和朝廷に歯向かう蛮族を呼ぶ名称だったのではないかとも言われている。
酒呑童子
しゅてんどうじ | 歌舞伎の演目「大江山酒呑童子」にも登場する有名な鬼の総大将。 源頼光と四天王の活躍により退治される。本作において、頼光はこの戦いで隻眼になったとあるが、詳しくは続編にて語られる。
頼光四天王
らいこう してんのう | 渡辺綱、坂田金時、卜部季武、碓井貞光の4人 いわゆる「○○四天王」という言葉のハシリのような人達。 文字通り、源頼光の妖怪バスターで活躍した4人の猛将をいう。 能楽の他に『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』、『御伽草子』などに登場し、大江山での酒呑童子討伐などで勝利している。渡辺綱は安倍晴明邸近所にあった一条戻り橋の上で鬼の腕(かいな)を切り落としたという伝説が別個にあり、坂田金時は、童謡でうたわれる金太郎さんが元服した姿である。